d 剃髪・愛の会❤特集・高校野球と丸刈りについて (続報第1号)
橋本剃云

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剃髪・愛の会特集・高校野球と
丸刈りについて(続報第1号)

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前回、【特集・高校野球と丸刈りについて──誰もきちんと論じていない「イマドキの球児事情」──】を書いたのは、ちょうど昨年(2018年)8月第100回甲子園大会直前のことでした。

そして、これを書いているのは2019年6月。今年も昨年同様の猛暑になりそうですが、その前に、昨年書きかけだった「宿題」を片付けておこうと思います。

目 次
 
1. ハフポスト日本語版の「9割が丸刈り」という手抜き記事
2. 明確なポリシーを持っているところもある
3. 単純に暑いから、という声もある
4. 本件と「ブラック校則」云々とは論点が違う
最後に
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★ハフポスト日本語版の「9割が丸刈り」という手抜き記事★

大会直前の8月4日、『ハフポスト日本語版』《甲子園、出場56校の9割以上が「坊主頭」。高野連は「頭髪は全くの自由」なのに...》(文・濵田理央)という記事が出ました。

が、残念ながらこれは、全面的な手抜き記事と断ぜざるを得ません。

というのも、ここでは鹿児島実業が「不明」となっていますが、これはちょっとでも足を使って取材すればすぐに分かることのはずなのです。8月4日であればもう選手たちは甲子園の近くに宿を取っているはずですから、まずは現地に観に行くのが本筋です(紙の雑誌ではなく電子版ですから、いつでも内容の訂正はできます)。あるいは、過去の資料と照合してもいいでしょう。つまり、どこに調べに行ったにせよ、どんな調べ方をしたにせよ、本気で取材すればすぐに分かるはずなのです。

それなのに「不明」ということは、つまり全くどこにも出かけていかずに、冷房の利いた涼しい室内で資料だけを見ながらモノを書いているということです。そして、「各社の報道などを元に独自に集計しました。」とありますが、要するにただの孫引きであって、結局はどこぞの5chまとめサイトと何も変わらないのです。

…まあ、電子雑誌の原稿料は恐ろしく安いそうですから、このレベルの記事になってしまうのも仕方のないところでしょう。たぶんこの記事では、東京と甲子園との間の往復交通費すら捻出できないと思います。ちなみに、ワタクシが某スポーツライターさん(本業はエンジニア)から直接うかがった話ですが、そのかたの場合で、もし電子版の原稿料だけで食べていこうとしたら年間200本の記事を書く必要があるそうです。日刊紙の専属記者の場合の執筆量がだいたい1日1本、年間200本程度でしょうから、外部の人にもそんなに高いお金は払えないよね、という裏事情が見えてきます。

●コメントにもウンザリ

この記事は「いかにも正論」という体裁を装っているので、発表当時は提灯持ちのコメントが大量についていました。そちらにもウンザリです。(なお、今はそのコメントは消えています。)

しかも、Facebookのアカウントと紐付けた形でないとコメントできないというタコな仕様です。荒らし対策の効果はあるのでしょうが、ここでワタクシの実名用のFacebookアカウントを使うわけにはいかない上に、変な同調圧力のようなものも感じましたので、その時は「コメントは無視する」ということにしたのでした。

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さて、上記の記事によると、「全員丸刈り」でないことを確認できたのは旭川大付属、土浦日大、慶應の3校のみだそうです。旭川は前回の記事の末尾で紹介したとおりなので、以下ではまず残りの2校について見ていこうと思います。

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★明確なポリシーを持っているところもある★

●土浦日大高校の場合

土浦日大高校については、《「高校野球、やっぱり丸刈りがベスト?」坊主と脱坊主の“ミックス派”土浦日大の答え|文春オンライン》(文・中村計)という記事が出ていますので、一部抜粋します。

 2016年に就任した小菅勲監督が説明する。
 「僕がきてからは、(髪の毛を)伸ばしてもいいよ、って言ってるんです。いろんな頭の形をしている選手がいるし、ハゲのある子だっていますしね(笑)。でも、うちも伝統校ですから、高校野球はこういうもんだって、坊主にする選手が多かった。坊主が好きなやつもいるんですよ。今の3年生くらいからですね、ちょっと伸ばす子が出てきたのは」

ここのキーポイントは「坊主が好きなやつもいるんですよ」です。前回の記事の「#重要な補助線:女子選手の場合は?」でいくつかご紹介したように、野球をやるからには坊主のほうがカッコイイ、と考える人は女子ですら一部には存在するのです。男子ならなおさらです。

結局、末尾に書いてある下記のまとめがすべてを的確に言い表しているように思います。最近は「Bald By Chioce」というキーワードが剃髪道の界隈で着目されていますが(→Google検索「bald by choice」Twitter「#baldbychoice)、ここで紹介されている小菅くんもそのタイプの人のようです。

一塁手の小菅康太は、どこからどう見ても坊主頭だった。
「寮生活で、なかなか髪を切りに行けないので。バリカンで自分たちで刈ってます。坊主の方が楽なんで
 それにしても不思議なものである。自分の意志で丸刈りにしているのだと思うと、見え方がガラリとかわる。
 いいな、と思えた。
 坊主頭への違和感――。その正体は、髪型そのものにあるのではなく、「半強制的に同じ髪型にさせられている」ことにあった。

●慶應義塾高校の場合

慶應義塾高校、一般的には常用漢字で「慶」と書きますが、知り合いの慶應OBの中には「應」の表記にこだわる人もいるので、私の辞書でも「慶」が先に出てくるようになっています。

さて、ここは伝統的にスポ根主義とは一線を画しており、当然、丸刈り強制はありません。上記と同じ記者による《「高校球児なぜ丸刈り?」“脱坊主派”、慶応高の監督に聞いてみた|文春オンライン》(文・中村計)によると、

 自由なチームカラーに憧れて慶応を選んだという杉岡壮将(2年)は話す。
信念があって坊主にしているなら、それはいいと思います。でも、なぜそうさせられているかわからないのであれば、かわいそうですね」

 もちろん、時折、自主的に坊主にする選手はいるが、現在部員は総勢105名、坊主らしい坊主の選手は誰もいないという。その理由を杉岡はこう話す。
「坊主だと、逆に浮いちゃうんで(笑)」

だそうで、全体的に「イマドキのフツーの高校生」という雰囲気が漂ってきます。それをはっきり示すかのように、校内のルールも生徒の自律精神に強く委ねられています。当サイトでも何度か話題に取り上げていますが、生徒のレベルが高い高校は全般的に、髪型についても無意味な校則が少ない傾向にあります。(【ツーブロック禁止校則のある中高生さんへ#ハイレベルな高校を目指すべし】で論じていますので、そちらをご参照ください。)

 慶応は学校自体、ほとんど校則がない。「制服のときは黒の革靴を履く」という程度だ。再び杉岡が説明する。
「先生方も校則がないのは自分で考えて行動するためだと言っています。自己責任だと。そっちの方が、変なことはしなくなると思います」

ちなみに慶應では、野球部よりもサッカー部で坊主が流行っているそうです。下記の記事には「やらかすと坊主です」とありますが、これも体罰的な性格のものではなく、「悪ふざけが行き過ぎて、和気藹々と罰ゲーム」という主旨のものだと信じたいところです。

サッカーをしているみんななら誰もが共感する、あのシーンやあのしぐさ。。。今回は、慶應義塾高校サッカー部ならではのあるあるネタを取材したぞ!

①野球部より野球部っぽい!
「野球部より坊主が多くて、坊主の比率がかなり高いです。よく野球部に間違えられます(笑)。あと、やらかすと坊主です。遅刻とか自分の仕事、チームの決め事を守れないと坊主です」
慶應義塾高校サッカー部あるある「大学女子サッカー部に推しがいる!」:ヤンサカ
https://yansaka.com/funny/post_002370.html
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★単純に暑いから、という声もある★

ちょうど上記の慶應の記事が出た最中に【声かけツイート】をしていて、「坊主 (面倒 OR 邪魔)」でツイートを検索していたら、単純に暑いから髪を短くしている、という意見が多数出てきました。(※上記のリンクでは、2018年8月5日〜10日のツイートに絞った検索結果が出るようになっています。)

確かにこれも一理あると思います。こういう暑い時期なのに長袖長ズボンという全身防備のユニフォームを着用して、しかも帽子までかぶって行う競技というのはなかなか見当たりません。野球の他には、大学や社会人のアメフトチームに剃髪(いわゆるスキンヘッド)の選手が少しいるくらいでしょうか。

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★本件と「ブラック校則」云々とは論点が違う★

さて、昨年の夏には「ブラック校則」というキーワードがネット上を飛び交いました。それに関連して、《校門圧死事件から30年――理不尽すぎる「ブラック校則」の闇が深くなっている|文春オンライン》(文・石田良)という記事が出てきています。これは、書籍『ブラック校則』の共編者のひとりが文春に寄せたものですが、これは現場取材ではなく、机上の資料分析です。

この記事の中では野球部の丸刈りについても議論になっていますが、これはデータの読み方が明らかに乱暴です。もっといえば事実誤認、あるいは、自説に都合よくミスリードしているとすら言ってもいいでしょう。

そもそも、「野球部=丸刈り」という慣習は一連の「ブラック校則」論議とは全く無関係です。そもそも運動部の中では教室内とは違う力関係が働いていますから、部活の話と校則全般の話とはいったん分けて考える必要があります。もちろん共通点は色々とあるでしょうが、細かいところは色々と違います。

特に、野球部の丸刈り率が2003年に46%というのは「脱・管理教育」「ゆとり教育」の流れで徐々に減ってきた結果と解釈できます(あるいは、1993年にJリーグが発足して、優秀な生徒をサッカーに取られかねないという危機感もあったと考えられます)が、そのあと逆に増えて、2018年現在で77%となっている理由は絶対に「校則で決められているから」ではありません。さらにいうと、著者の内田良氏や共編者の荻上(おぎうえ)チキ氏らが近年熱心に問題提起・情報発信をしている学校関連の現象全般についても、その正体は「昭和の管理教育への揺り戻し」とは全く土台を異にするものです。

この77%という数字は、よく言えば生徒たちの判断自主的にやっている結果であり、悪く言えば部活という密室の中で集団心理が働いた結果です。顧問の意向で丸刈り強制、という話はもちろんあるでしょうが、その場合でも教員全体の総意とは分けて考える必要があります。

そしてこの記事もTwitterで「ジャーナリスト」を名乗る人たちが大々的に取り上げて、それに対して提灯持ちの反響が多数ありました。もちろん、そういう意見に賛同する人がいること自体は別にかまわないのですが、よくよく考えてみると、この主張に異論を唱える人がいない、あるいは、いても言い出せない、言っても無視される状況、そのような強い同調圧力が働いている状況というのは結局「ミイラ取りがミイラになっている」のであり、決して喜べないように思います。

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★最後に★

というわけで、気がついてみたら今回のキーワードも「集団心理」と「同調圧力」でした。野球部の件を考える上では(あるいは学校がらみの問題全般についても)、ここの部分の丁寧な分析が避けられないように思うのですが、荻上氏・内田氏らのような「社会の仕組み」という切り口で全体像を議論する人の他に、「各選手の心理状態・生活環境」という切り口から個別の現場をきちんと丁寧に掘り下げていく、そういう研究も出てきてほしいものです。

ではでは、今日はこんなところで

 

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